ネパールへの訪問

恩師の故氏原暉男先生(信州大学名誉教授)の法要のためネパールのツクチェ村を訪ねたのは昨年3月でした。アンナプルナ・ヒマール山域のダウラギリ、ツクチェピークの裾野の辺です。ここから、ムクチティナートへと足を伸ばし、キンガー村に3日間滞在しました。

キンガー村でタルチョを上げる

キンガー村では現地のテシさんに案内してもらい、ムクティナート参拝や4000mの山腹に登り、テシさんとタルチョを結んできました。5色の旗「タルチョ」。チベット仏教においては、重要な意味があります。

ネパールのタルチョ

タルチョを上げてきました。標高4005m 酸素が薄くハアハア

タルチョの5色の意味。テシさんが教えてくれました。一番上が、青、これは空の色。白、これは雲。赤は岩の色。緑、これは植物の色。そして一番下が黄色、土の色。この5色で世界を表しています。チベットに興ったチベット仏教。この荒涼とした色彩が限られる世界の中にあって、この5色は世界観を表すのに足る色だったのでしょう。そう聞くと、5色でできたタルチョの意味が少し分かります。たしかに、上から下にこの順番で並んでいます。

そばの食べ方

タルチョを上げたあと、キンガーでは、テシさんのロッジに泊まり、夕食は、ディロにしてもらいました。ディロとはそばがきです。食べてみても日本のそばがきと全く同じです。そばには2種類あって、パーパーはSweet Buckwheat 甘そば、普通そばと、バテパーパーこれはダッタンソバです。そばがきをディロといいます。そばのもっともポピュラーな料理で、しょっちゅう食べているそうです。実際、台所の下に容器に入った2種類のそば粉がおいてありました。そば粉は常備食のひとつです。

ネパールのそばの葉

そばの葉乾燥物と粉末「ダープラ」 ネパール・キンガー村にて 201603著者撮影

 

そばの葉ダープラ

そば粉の他に、もう一つのそばに関係する素材がありました。そばの葉です。そばの葉を乾燥させ粉末にしたものをダープラといいます。ダープラには、そばの葉、普通そばとダッタンソバの両方の葉が混ざっていることがありますが、加えて小麦の葉も混ざっているいることもあるようです。緑色の粉末、ダープラにバター、塩、香辛料を加えて煮込んでスープにします。すこし癖がありますが、よく飲んでいるそうです。味はそばの葉の味と、塩辛さと香辛料でかならずしもおいしいとはいえません。でも、このスープを飲むことで、そばの葉に含まれるルチンをたっぷり取ることができ、皆、健康です。福岡の川崎晃一先生(九州大学名誉教授)の複数にわたる疫学的現地調査によると塩分の強い塩バター茶はじめ、塩辛いものを食べているにも関わらず、この地域の人々は、そばの葉を食べているので、ルチンによって高血圧の人が少ないそうです。そばの葉がとても健康によいという疫学的な実証例になるそうです。このことは、そばの葉を、青汁にも使いたいと思ったひとつの理由です。

そばの葉と氏原先生

氏原先生の写真(高嶺ルビーの原種と)とそばの葉とロキシー(にごり酒)

恩師と高嶺ルビー

テシさんとの夕食時、おみやげに、そばの葉のダープラとそばの葉の乾燥物をもらいました。氏原先生と赤そばの写真、そして先生がとても好きだった小麦粉の濁り酒ロキシーと一緒に写真を撮りました。ちなみにここの普通そばはティトパーパルといって、赤そばを意味します。写真中の置いてある写真は25年前のもので、この赤そばを元に、後年、氏原先生と一緒に日本で「高嶺ルビー」という赤いそばの品種を作りました。「高嶺ルビー」(たかねるびー)は、今でも、全国で赤そばとして栽培されています。

テシさんご家族

テシさんご家族(中央テシさん、左お母さんチェチ、右おばあさん)

次の日、お世話になったグルンさん一家ともお別れです。ジョムソンまで歩いて1日の行程です。風が猛烈に強く、一歩一歩進むのが大変でしたが、荒涼とした川辺を下る想い出深いトレッキングになりました。